「葵ちゃん、改めてよろしくな」
琴葉葵は、あの日の事をしっかりと覚えている。
幼少の頃、いつだったろうか。単身赴任の父親を慕い、双子の姉、琴葉茜は葵のそばから離れてしまった。もちろんそれで姉妹の縁が切れる事は無かったが、関東と関西、距離の遠さは二人を少しだけ縁遠くした。
転機はごく最近だ。茜が、仕事を機に関東へ引っ越すと言うのだ。葵もまた、家を出るつもりがあった。二人は相談し、一緒に生活する事を決めた。
引越しの日、二人はドアの前で改めて握手をした。照れ笑いが重なり、また二人で笑った。
ああ、私たちは姉妹だ。きっと、うまくやっていける。琴葉葵は、あの日そう強く感じた事を、今でもしっかりと覚えている。